目標を具体的にするには?

f:id:togashimotohiro:20210504164936j:plain

Design(設計)の項目で最初にやることは、Analyzeで分析したニーズを具体的な目標に置き換えていくことです。

具体的な目標を作ることで受講者やその上司、会社や研修の講師などすべての人々に学習の意図が明示でき、何を学習すべきかを理解してもらうことができます。

あらかじめ研修の目標を決めてしまうべきではないという方もいらっしゃいます。研修で多くのことを学んでもらいたい、目標を作ってしまうと目標以外のことを学ばなくなり、学びがかえって狭まってしまうのではないかという意見もあります。

この考え方も正しいとは思うのですが、インストラクショナルデザインを用いて研修を設計するときには目標を設定することをお勧めします。なぜなら企業研修は業務課題を解決するために実施されるものであるからです。

目標が達成できたのか否か、達成した目標で本当に課題が解決できたのかといった分析をし改善することは、研修を継続するうえで必須です。意図せずした学習も大切ではありますが、研修を継続、改善していくには意図した目標とその結果を分析する必要がありますし、意図せず学習できたことが重要であるならば、次回以降目標に組み込んでいけばよいのです。

では、目標を具体的にするにはどうしたらよいでしょうか。「研修前にはできなかったあるいはやらなかったことで、研修後には出来るようになったあるいは変わったこと」を目標に書き表すと具体的になります。そしてもう一つ注意しなければならないのはこの時にできるようになったこと、変わったことは他人から見て客観的に観察可能でなければならないということです。

目標を具体的にする際のポイントを2種類紹介したいと思います。5要素構成法と明確化3要素の2つです。

5要素構成法は状況(学習成果がパフォーマンスとして実行される文脈)、学習した能力(学習した能力を示す動詞)、対象、行動(実際の動作)、制限あるいは条件(道具や条件)の5つを組み込んで目標を作るやり方です。このやり方では動作を2種類書くことになります。これは能力と、能力が発揮されている動作とを区別するためです。つまり能力は直接観察することができないため、その能力を使って行う動作を確認することで能力の向上を推論しなければならず、両方を峻別する必要があるのです。

状況とはどのような環境で行われるのかを指しています。例えばその作業に集中できる静かな部屋なのか、他の仕事と並行しながらやらなければならないのかといった外的な要因から、資料を見ながらできるのか暗記しておく必要があるのか等の内的な要因も含めます。

学習した能力はAnalyzeで教授分析した学習成果に呼応した動作にする必要があります。こうすることで研修で求められている学習成果をより明確に伝えることができますし、学習成果の種類に応じた学習条件を適用しやすくなります。

対象はものだけでなく動作の内容を含んでいます。また対象には必ず研修で学ぶことが含まれています。例えばエクセルでの売上管理が研修の目標であった場合、「エクセルでの表計算」が対象となるでしょうし、調理の研修であれば「肉の新鮮さを」判断できることが対象となります。

行動は研修で学んだ能力を用いて行う行動を指しています。この行動は必ず観察できるものでなければなければなりません。例えば「パソコンでビジネス文書を作る」という目標の場合、観察できる行動はパソコンを使うという部分になります。この時に注意しなけれあならないのは、学習した能力で使用した動詞は使用しないということです。

制約あるいは条件は、使用する道具であったり、制約条件などのことを指しています。先ほどの「パソコンでビジネス文書を作る」ということであれば、職場に用意してあるパソコンを使うであったり、インストールされているワープロソフトを使用しなければならない等の条件が加わることになります。

明確化3要素は1.行動で目標を表す。2.評価の条件を示す。3.合格基準を示す。の3つの要素を含んで目標を立てるやり方になります。

行動で目標を表すというのは、観察できる行動にする必要があります。例えば「理解する」という目標は観察できませんので、「試験で60点以上を取り続けられる」等の観察できる行動に置き換える必要があります。

評価の条件を示すというのは、使用する道具や制限を示すということです。職場での状況がそのまま制約になります。

合格基準を示す。これは具体的な数字がある方がより効果的になります。例えば、「誤差は3%以内」であったり「20分以内に90%以上の作業を完了する」といったように数字があると具体的になります。

どちらの方法でもよいのですが、目標を具体的に定義することで研修で何を学ぶのかということを明確にすることができます。さらにこの目標を学習成果で分類することで、目的が適切に表現されているか、複数の目標の関連性は適切かどうか、どのように教えていけばいいか、どのように評価されるかということが判別できるようになるのです。

そしてもう一つ、目標に関しては次の二つの特徴を持っておく必要があります。一つは研修中に行うことではなく、研修後に出来ることについて書かれていなければなりません。例えば、「パソコンを使って文書を作ることを体験させる」ではなく、「パソコンを使ってビジネス文書を作成できる」等の目標にする必要があります。

もう一つは遠い将来の目標ではなく、研修直後に達成される成果について書かれている必要があります。例えば、「社会に有用な化合物を開発する」といったような将来の目標よりも「化学反応によって化合物を作ることができる」というように研修で学んだ直後の成果にしておく必要があります。将来の目標を決めることは悪いことではないと思いますが、研修の目標としてはふさわしくないでしょう。