研修の教え方を考えてみましょう

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学習目標を分解再構築することで研修で具体的に何を教えるのかということは決定できるようになりました。今回はどのように研修で教えていけばよいのか、教え方について学んでいきましょう。

教え方を考えていくときは教授事象と呼ばれる9つの指針があります。

この順番通りに研修を進める必要も、すべての要素を必ず研修に組み込まなければならないというわけでもありません。特に受講者がベテランであればあるほどこれらの教授事象を自分自身で行うことも多くなっていきます。「研修中にどのような支援が必要になるのか」を考える際に指針として活用するための事象です。

1.学習者の注意を喚起する

ARCSモデルのA(Attention)になります。興味や好奇心をかきたて、研修に集中してもらうことが必要になります。

2.学習者に目標を知らせる

明確な目標を伝えることはその研修で学ぶスキルに集中することに役立ちます。目標があいまいであったり十分に伝わっていなければ、受講者は研修で学ぶことを自分で想像してしまいます。そうなると講師の考えている目標と受講者の目標に齟齬が生まれ、最悪の場合受講者が学習内容からそれてしまう可能性が生まれます。また、目標を講師の方が言葉にすることで講師自身が横道にそれることの歯止めにもなってくれます。

3.前提条件を思い出させる

社会人が新しく何かを学ぶ場合、基本的には自分の今までの経験をもとに学ぶことになります。新しく学ぶことを既習のスキーマに結び付け取り込みながら、新しいスキーマを構築したり既存のスキーマを変化させていきます。そのため、適切なスキーマを思い出してもらうことで、学習の速度を早めることができますし不適切なスキーマとの結合を防ぐことができます。

4.新しい事項を提示する

新しく学ぶことを提示する際に注意しなければならないのは、提示の仕方です。提示される方法は目標に沿ったものである必要があります。例えば英会話で発音を学ぶのであれば口頭で伝えなければなりませんし、英語を音読してもらいたいのであれば印刷物を提示する必要があります。

提示の仕方と目標が沿っていないと別のスキルを学んでしまう可能性が出てきます。例えば発音のために口の動かし方だけを教えて実際の音を伝えなければ、英語を話せないでしょうし、漢字の読み取りだけをしていると書くことは覚えられないかもしれません。この齟齬を避けるため、学習内容は学習成果に適した方法にしなければならないのです。

5.学習の指針を与える

受講者が既に知っていることと新しく学ぶことを結びつけていきます。つまり前提条件として思い出してもらったスキーマに対して、どのように結びつけてもらうかということを考えていきます。

「直接的ヒント」と呼ばれる対象そのものを説明する方法や「間接的ヒント」と呼ばれるような質問から対象を発見するような方法を組み合わせて行うとよいといわれています。またヒントの量は受講者の様子を見ながら徐々に増やしていくとよいでしょう。

6.練習の機会をつくる

理解できているどうかを確かめるために、問題を解く機会を作りましょう。講師が確認できるだけでなく、受講者自身も理解しているか確認することができます。

練習問題に取り組むことで受講者が学んだ内容を適切に思い出すことができるか確かめることができますし、学習内容を正確で十分に理解できているかフィードバックすることができます。

7.フィードバックを与える

学習内容の正確さや学習成果の程度について確認できるフィードバックが必要となります。これは最後に練習問題を解いた時だけに限った話ではありません。研修中での質問や進み具合を確認しながらでも随時フィードバックを与えていきます。

講師の頷きや言葉遣い等コミュニケーション自体もフィードバックとなります。この時重要なのは、コミュニケーションの中身がどうであるかということよりもコミュニケーションをとるということ自体に意味があるということです。

ただしフィードバックを与えるのは正確さや程度を確認するためであるということは意識しておく必要があります。肯定的なフィードバックであればそのままでいいかもしれませんが、間違っているときや修正が必要な時には、何をどのようになおしていくべきかをフィードバックする必要があります。

8.学習成果を評価する

適切な行動が引き出された時に学習成果に到達したということになり、これが学習成果の評価となります。とはいえ、適切な行動がたまたま引き出されたかもしれず、評価するときには信頼性と妥当性の2つをクリアする必要があります。

信頼性は偶然ではなく本当に学習できているかを確認する必要があります。つまりたまたまではなく本当に理解できているか、何度か異なる例を用いて確認して信頼性を高めていきます。

妥当性は二つのことを判断する必要があります。一つは行動と学習目標が正確に対応しているかどうか、もう一つは公正な観察が可能な状態で成果を確認できたかどうかです。

行動と学習目標が対応しているかどうかとは、例えば「文章を要約する」という目標に対して本当に要約できているかどうかだけを判断します。要約の読みやすさや長さ等を判断基準に入れてしまうと学習目標と成果が一致しません。

公正な観察が可能な状態というのは、例えばテストなどで答えを暗記したのではないかであったり、類似問題から推測したのではないかという影響を排除出来ているかということです。学習成果を純粋に評価するためには学習内容から成果が生まれていることを確定させなければなりません。

9.保持と転移を高める

学習した内容を忘れないようにするにはどのようにしたらいいか、また必要な時にすぐに思い出すにはどのようにすればいいのかということについてです。

保持を高めるには、数週間あるいは数か月にわたって間隔をあけて復習するとよいといわれています。同じ量でも研修直後に集中的にやるよりも一定間隔を空けて行われる方が効果が高いといわれています。

転移を高めるには、復習の時の課題は多様な新しい課題を与えるとよいといわれています。この時に使用シーンが大きく異なり、学習内容の応用の仕方が違うもののほうが効果的であるといわれています。また課題を作る際に学習成果の本質がわかるように設定に注意する必要があるといわれています。学習成果は学び方や伝え方に影響を受けやすいため、課題を用いながら修正し本質を明らかにしていくと良いのです。