Evaluation(評価)

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ADDIEモデルの最後の項目は評価です。

全体評価をするために評価を最後に置くというのが当然であるとは思いますが、実際には今まで説明してきた場面それぞれでも個別に評価しますので、すべての状況に関わる項目でもあります。

研修を評価する際にはパフォーマンスに注目して評価することが基本です。

ヒューマン・パフォーマンス・テクノロジー(HPT)と呼ばれるものが代表的ですが、研修とはそれがすべてではなく、パフォーマンス開発における要素の一つにしかすぎません。そのため、パフォーマンスは研修だけでなく動機づけや学習機会などの環境要因からも影響を受けます。

また、研修の目標はそれ自体が到達点ではなくその先に到達点があり、その到達点に達するための手段ということになります。つまり研修を受講し合格することが目的ではなく、研修で学んだことを職場で活かして業務課題を解決することがゴールとなるのです。

そのため、研修を評価する際には目標としていたパフォーマンスに対しての資料を体系的に集め、そこから研修の影響を分析し解釈することによって評価するというのが基本的な評価方法となります。

評価法を目的別に分類すると形成的評価と総括的評価の二つがあります。

形成的評価はADDIEモデルの各フェーズを改善するためにする評価です。受講者や他の評価者から得られるフィードバックから判断しますが、結果だけでなくその理由を考えることが重要となります。研修で使用した教材によって興味を惹きつけることができたという結果だけでなく、なぜその教材で興味を惹きつけることができたかという理由も考える必要があるのです。

総括的評価は受講者の成績と研修の有効性に関する評価です。受講者が目標としている水準に合格したか不合格かだけでなく、研修そのものが目的に合致しているか、十分な効果が得られたかを判断することになります。

また評価を対象別に分類すると5つの種類があります。

1.教材評価

設計・開発した教材を評価していきます。教材とは目に見える教科書や資料だけでなく、研修の実施内容そのものを指しています。教材を評価するには、専門家による設計書のレビュー、少人数の参加者に1人ずつ受けてもらう1対1評価、パイロットテストやフィールドテストなどを行っていきます。

2.プロセス評価

インストラクショナルデザインをしっかりと行えたかどうかを評価していきます。ADDIEモデルの各フェーズごとにプロジェクトメンバーや外部評価者が評価していきます。プロセスを評価することによって、品質管理とその継続的な改善を行っていくとになります。

3.学習者の反応

受講者の自己申告調査で行われることが多いです。研修の明確さ、各項目のつながり、講師の有効性、環境の快適性などを評価していくことになります。

4.学習者の達成度

受講者が目標をどれだけ達成できたかを評価していきます。合格不合格だけでなく、進捗率なども確認していきます。また、成績を付けない場合でもフィードバックを受けるためにテストを行うことが勧められます。

5.インストラクションの結果

研修の結果が職場や他の適応分野にうまく転移されたか、研修から得られた測定可能な利点はあるかという2点を主に評価していきます。転移は受講者が学んだことを職場でどれだけうまく応用できたかということですが、これは研修だけでなく、職場環境などの環境要因にも影響を受けるため、これらの要因もすべて評価することが必要となります。

研修から得られる測定可能な利点には、採算率の向上、投資回収率などの数字データからインタビューや向上した行動などの感覚的データまで様々なデータを含みます。

次回以降はこれらの評価に関して詳しく見ていこうと思います。

Implementation(実施)大集団への研修

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研修の実施方法の最後は9人以上の大グループに対する研修です。

この形式では今までの形式と異なり、全員に個別指導をすることは難しくなります。従って教授事象の運用は的確性を欠きやすくなります。

例えば全員の注意を喚起できているか目標を理解しているかなどは、全体に対する効果は確認することができますが、それが各個人に対して効果が出ているかは推測するしかないのです。

このため、個人にとっては研修の有効性が低かった場合には、復習などの自己学習によって補わなければならないのです。

大グループでのもっとも一般的な形式は講義形式になります。

講義形式は、1.講師が自分の熱意で受講者を動機づけし、2.受講者の興味と講義内容とを結びつけ、3.理論と研究を実際の問題と関連付ける、という目的を最も経済的に達成できるため現在でも主流の形式となっています。

一方で受講者個人に目を向けると各個人に適した研修方法を必ずしもとれるわけではなく、研修の目標を達成するかどうかは確率論的な問題となります。特に練習の機会を作り、フィードバックを与えるという教授事象が不足しがちになるのが、講義形式の最大の弱点になるでしょう。

もう一つの形式は復唱形式です。受講者を一人ずつ当てていき、一問一答形式で様々な質問をしていきます。

こうすることによって練習とフィードバックを与えていくのですが、どうしても人数が限られてしまうため的確性を欠くということと、宿題や事前学習を課すなどの学習者自身の自己学習に委ねる部分が大きくなるというところが課題として残ります。

こうした問題を解決するために、研修内容を細かく分けて頻繁に確認テストをすることで進度を確認しながら、達成者には次の内容を未達成者には小集団あるいは個別指導で補習する等の追加指導をするという方法があります。

あるいはオンライン研修にするという方法もあります。

オンライン研修では受講者自身の好きなやり方で研修が進められますし、練習の機会を豊富に設定することもそれらに即時にフィードバックすることも可能です。

しかし受講者が孤立しやすくなるため共同作業の機会を入れるなど、オンライン研修特有の課題もあるため、これらの新しい問題を解決していく必要があることにも注意しなければいけません。

Implementation(実施)小集団に対する研修

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次に少人数での研修の実施についてみていきましょう。少人数といってもどこまでを少人数とするか、いろいろな考え方があるかと思いますが、今回は8人までを少人数として取り扱います。つまり、3~8人の集団に対しての研修の実施方法について特徴を見ていきます。

小集団を選抜するときには事前テストによって集団のレベルを統一しておくことがお勧めです。そうすることによって一斉指導をしながら個別指導の要素を取り入れることができます。

個人個人のレベルが離れていると、つまり前提条件が不足している場合には差異が際立ってしまい、研修の実施が難しくなるでしょう。

研修を実施する際には、全体に説明する場面と「多学習者個別指導」といわれるような順番に個別指導を織り交ぜる方法が一般的です。

つまり全員に伝えなければいけない教授事象を全体に伝え、それを理解できたかあるいは達成しているかを順番に質問をしていき回答を得ながら、各個人に合わせて教授事象を修正して運用していくという形になります。質問の例題は各人によって変えることによって指名された受講者以外もその質問について考えることでより学習の保持と転移が促進されます。

また、小集団研修の実施方法としてもう一つ特徴的なものはディスカッション(討議)です。ディスカッション形式では双方向にコミュニケーションをとることができ、一人の発言に対して他の人が反応し、それに対してまた反応していくというような形で行われます。

ディスカッション形式は1.内容領域の習得、2.態度の形成、3.問題解決力の育成に効果的であると考えられています。

態度形成及び変容に関しては問題指向型ディスカッションが効果的であるといわれています。社会問題に関して冒頭に説明を受け、それに関してディスカッションをしていき最終的に大きな不一致のない形でグループの意見を集約するというディスカッションです。この方法では多数の人間モデルが参加することになりますし、その実際の行動やグループとしての合意形成を図る間にもフィードバックを受け続けることができます。

問題解決を目標としたディスカッションで最も効果があるのは、複数の解決法がある課題と態度的要素が含まれる課題の時であるといわれています。

この形式のディスカッションの場合には研修者自身の自己制御によるところが大きくなります。従って課題を設定する際には興味や感動を喚起する課題を設定することで動機づけを図る必要があります。また態度変化に関しては二次的な成果であり、あくまでも問題解決能力の育成を目標にした方が良い結果になります。

Implementation(実施)個別指導

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実際に研修を実施する場合はどのようなことに注意していく必要があるのでしょうか。研修を受講する側の集団規模に応じてその特徴を見ていきましょう。

まずは個別指導、一人ないしは二人に対して行う場合についてみていきましょう。

個別指導は教える側、教わる側双方向にコミュニケーションが作用するのが大きな特徴となります。つまり、教わる側だけでなく教える側も学ぶことが大きいのです。そのため、受講者同士でペアを組ませて個別指導をさせる形式をとることも多いです。

個別指導を行う場合、基本的には受講者の課題(ギャップ)を確認した後にそのギャップを埋めていく形で研修を実施していく形になります。事前テストを行ったり、口頭で確認する等をして、まずは目標との乖離を確認することが大切です。

個別指導の場合、個性に合わせて柔軟に調整できるというのが最大の特徴であり、何度も試行錯誤できるというメリットがあります。教授事象にあてはめた特徴は上の図の通りになります。

柔軟性が高く、どの事象をどのように選択し、配置するかを決めることができますし、どれを受講者の自己学習に委ねるかを選択することもできます。

この自由度の高さが学習効果を高めているというわけではなく、自由度が高いがゆえに教授事象を的確に実現することができるために効果的であるといわれています。換言すると、きちんと設計されていない研修では、仮に個別指導であっても効果は望みにくいということです。

社会人の個別指導の場合では自己学習が基本となり、適時フィードバックと評価を加えることと学習の保持の促進及び他の状況への転移を示唆することに限定されるケースが多いですが、本質的には教授事象の9事象すべてのステップを実施している必要があります。

Implementation(実施)

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ADDIEモデルの4番目Implementation、実施についてです。実施ではこれまでで設計し、開発した研修をいよいよ実際に実施していきます。

この実施には2種類あります。一つは研修の設計者として開発した研修を提供するという意味での実施。もう一つは実際に研修を行うという意味での実施です。

今回はまず研修の提供を成功させるための実施方法について説明していきたいと思います。研修の実施方法に関しては、次回以降説明していきます。

 1.状況に応じた学習システムの開発

成績表のようなシンプルなものから、進捗状況、習熟度や今後の計画等を記載する複雑なものまでさまざまなものがあります。

2.学習者のガイダンスと支援

受講者は基本的に研修で何を学ばなければならないかであったり、そのためのスケジュールや準備は何が必要かなどを事前に考えてから参加することはほとんどありません。これらの学習に関するガイダンスを行うことによって、ドロップアウト率を下げ、学習の質を向上させることができるということがわかっています。

3.変化に備えた計画

研修の講師がより効果的に研修ができるように支援する必要があります。そのためには講師向けの資料の用に物理的なものを提供したり、講師ガイドのようなものを開発したりするなど様々な方法があります。

4.実施環境計画

研修の行われる環境を検討し、準備することも大切です。これには技術的要件、分散学習における現地サポート、実施可能な研修スケジュール、受講者のスケジュール調整などが含まれています。

例えば、オンラインでのWEB研修が盛んになってきていますが、いつでもどこでも出来るからといって業務中に研修を受けるための時間を確保しなければ、仕事が終わって家で受講することとなりやる気は出ないでしょうし、そもそも受講しないという人も出てくるでしょう。かといって業務中に隙間時間で受講していると細切れになってしまったり急な仕事が来て集中できないなどの問題があるかもしれません。このような環境を把握し整備していくことは研修目標を達成するためにも重要になるのです。

5.システムの保守

研修は完成して終わりではありません。その研修を続けていくためには保守し続けなければなりません。

保守するためには研修コースの評価とそのスケジュール、評価結果の収集と活用方法、的確さとタイムリーさについてのコースコンテンツのモニタリング手法、カリキュラムの他の要素との継続的な関連維持方法、あるいは組織の目的や学習要件と研修の関連性の維持などが必要となります。

 

 

 

Develop(開発)運動技能

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Develop(開発)の最後は運動技能に関する学び方です。

運動技能はさらに2つに大きく分けることができます。動作のつなげ方と、個々の動きです。つまり、野球でピッチングするには投球フォームを覚えるということとその投球フォームに基づいた個々の動き、例えば腕の振り方や足のあげ方等の2種類を学ぶことで、ピッチングの動作を学ぶことができます。

学ぶときにはまず動作のつなげ方、先ほどの例でいえばピッチングフォームについて学びます。あるいは既に知っている動作であれば思い出してもらえればよいでしょう。

この動作のつなぎ方を教えるのには様々な手段があります。実演したり、口で伝えたり、文字にしたり、絵で図解したりとコミュニケーション方法は様々ありますが、どれが効果的かは状況によって変わるので、その時々に合った方法を選択すればよいでしょう。

そして学んだ動作がスムーズに行えるように個々の動作を練習して身につけていくことになるのですが、この時に個々の動作を個別の反応あるいは単一の連鎖として分解して取り出すことができるかどうかが習得に影響を与えます。

例えば先ほどのピッチングでいえば、腕の振り方を学ぶときに腕のあげ方や降ろし方等どこまで個別化するかということが重要で、これが球を握るための親指の力の入れ具合とかまで細かく分解する必要はほぼないですし、体重移動しながら腕を移動させるというところまでしか分解していないと動作が複数あり、さらに分解する必要があります。

運動技能を学ぶときには前提条件として他の運動技能が必要となるケースがあります。例えば泳げるようになるためにはバタ足ができていないといけませんし、長距離を泳ぐには息継ぎ方法を事前に習得している必要があります。また、学ぶときの態度が良いほうが習得にも良い影響を与えやすくなりますので、事前に学習しておくのもよいでしょう。

運動技能はパフォーマンスの速さと正確さで評価するのが良いでしょう。運動技能は練習によって徐々に質が上がっていくという性質であり、一般にただできるだけでなくその質も求められるケースが多いため、単純に運動技能を覚えたかどうかではなく、運動技能が求められている水準に到達しているかどうかを測定する必要があります。

Develop(開発)では教材の開発の仕方と学習成果の5分類の学び方について学びました。次回からはImplemennt(実施)について学んでいきたいと思います。

Develop(開発)態度

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態度の学習方法です。態度とは色々な意味があるかと思いますが、ここでは「ある対象・人・事象に対する個人的行為の選択に影響を及ぼす内的状態」のことを指します。わかりやすく言うと、ある行動をとりやすいかどうかということを態度と呼んでいます。

従って態度を習得したかどうかは、想定している状況で特定の行動をしたかどうかによって評価されます。一度だけではたまたまという可能性があるため、何度か繰り返し測定し、選択率を評価するのが適切な評価方法になります。

態度は他の人から学ぶことが一般的です。とはいえそもそも態度として選択すべき行動が実行できなければ態度として選択できないため、その行動が実行できるようやり方(知的技能)や知識(言語情報)は既に習得していなければなりませんし、態度の学習にはそれ以外の態度や知識というのも、学びやすさに影響を与えます。

態度を教えるときには、まず真似してもらう他人を提示するところから始まります。

この人を真似たいと思ってもらえないと、態度を学習してもらえませんので、モデルになる人物は尊敬出来てなおかつ自分も同じようになりたいと思わせる人物である必要があります。

例えば安土桃山時代の英雄、織田信長豊臣秀吉ですが、一般的には織田信長は独断専行タイプ、豊臣秀吉は人たらしというイメージが強くあります。両方とも尊敬される人物であることに変わりはないのでしょうが、どちらのようになりたいかは興味趣向によって異なってきます。つまり、人の和を重んじるのなら織田信長のようになりたいとは思わないでしょうし、独力でやりとげたいと思うのであれば豊臣秀吉のようなやり方を学びたいとは考えないでしょう。

このように尊敬出来る人と同じようになりたいと思う人物はイコールではないのです。この二つの条件を兼ね備えたときに、態度学習にふさわしいモデルになるのです。

態度を学んでほしいモデルを提示した後に、態度を評価するために設定した望ましい行動を行うための情報を提供する必要があります。

例えば、野球のイチロー選手は準備をしっかりとして試合に臨んでいましたが、この準備に対する態度を学んでもらいたいとします。野球少年であればイチロー選手が実際に行っていた準備の具体的なやり方を理解していないと真似できないですし、ビジネスマンがイチロー選手の準備に関する考え方を真似するためには、自分の仕事の準備のやり方を知っていないと行動に移そうとしても実行できません。

態度として選択される行動の前提条件を思い出してもらった後で、モデルが実際にやっているところを見てもらい、その行動の結果としてよい成果を得たというところまでを確認してもらいます。

先ほどの例でいえば、イチローが準備しているところから見てもらい、実際に試合でヒットを打ったところまでを確認してもらう必要があるということです。この時に、イチロー自身が喜んでいたり、周りが祝福しているところを見せるとよい結果であるということがより鮮明になり、学習成果が高まりやすくなります。

これは別に有名人である必要はありません。

例えば子供にごみをゴミ箱に捨てるというマナーを教えるときに、ごみ箱にごみを捨てている人を褒めれば真似してくれて、ごみをゴミ箱に入れるという態度を学ぶでしょうし、一緒に仕事をしていた同僚が表彰されれば、その同僚と同じことをしようと思うでしょう。この時にどういう行動が評価されたのかということを明確にすることで、その行動を真似しようという意欲が高まります。

態度は特定の行動の選択率で評価されます。その選択率をより高めるためには、その行動を選択したときに、褒めるということが効果的であるということがわかっています。

態度というのは習慣になっていることも多く、その行動を変化させるのには教える側も教わる側も多くの時間と労力を費やさなければなりません。そのため、態度を変化させた結果をしっかりと伝えて納得してもらう必要があります。

メリットだけを強調するのは公平性に欠け共感を得られませんので、マイナス面も伝えて総合的に判断してもらう必要があります。特に大人になればなるほど行動に伴うコストとそれによって帰ってくるメリット、いわゆるコストパフォーマンスを意識することも多くなります。

コストは金銭だけでなく、時間や労力などの様々な意味が込められていますので、どの側面に注目してもらってコストパフォーマンス性を評価してもらうかということも大切になりますし、この時注目してもらう面の価値観が大きいほど選択する可能性が高まります。

ただ上司に言われた業務だからというよりも、会社組織の維持のために必要だと思った方が良いですし、職業倫理感や社会に役に立つためにその行動を採るというほうが選択率が高まる、つまり態度を強固に学習するということになります。

態度を学習するというのは学ぶのにも効果を測定し、評価するのにも時間と労力がいる学習です。説明してきた内容のすべてを実際に行うことは難しいですが、少しでも多く取り入れたほうが、効果が出やすくなりますので、出来る範囲で取り入れていくことがお勧めです。